「この子みてやって~」
瀕死の僕はどこかのランニングクラブの私設エイドに連れられた。
ベテランランナーのおじ様から見たらおっさんの僕もこの子なのだろう。
私設エイドのテントの中にあるパイプ椅子に連れられました。パイプ椅子に座るも、
横になりたい!パイプ椅子、空気椅子みたいにキツイ!
わがままは言えません。でも椅子に座るのも辛い。横になりたい!
そこに現れたキャサリンさんはベテランのランナーって感じのスラッとした綺麗な女性でした。僕より年上かな。被っていた帽子にキャサリンと書いてあったので聞き間違いではなく、この人はキャサリンさんなんだと認識できた。見た目は日本人のようだ。あだ名なのかな。
「大丈夫ですか?」
(大丈夫じゃないです)すいません。すいません。と言うしかありません。
キャサリンさんがコーラをくれます。甘くておいしい!
脚がつります。ベテランランナーのおじ様が伸ばしてくれます。
見ず知らずの練習不足のおっさんのためになんでこんなに優しくしてくれるの?
ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいです。
えっ!?まてよ。この手厚いサービス!後でごっつい料金請求されるのか?
それくらい手厚いサービス。
この人たちは何で僕を助けるのだろう?
瀕死の状態で思います。
パイプ椅子に座り、エイドを通り過ぎていくランナー達を眺める。僕の遥かに後ろを走っていたランナーがどんどん先を行く。
この流れは3時間45分位だろうか?この流れはサブ4を狙う集団か?
過ぎ去るランナーをただ眺めるだけです。その間も脚はつり、皆さんに助けて頂いてます。お世話になっているのにカッコ悪くてまともに目を合わせることができません。
27キロの壁ドンにあってかなりの時間が過ぎたのだろう。突然寒くて震えが止まらなくなりました。ガタガタと体が震えます。
大変!とランニングクラブの皆さんが処置をしてくれます。キャサリンさんが味噌汁を持ってきてくれ、羽織るものをかけて僕の体を冷えないようにさすります。おじ様ランナーは脚つりが酷いので梅干しを持ってきてくれました。
キャサリンさんに体をさすられながら思います。
惚れてまうやろ~!!
僕がジャニーズ系のイケメンならまだ介抱するのもわかるが、20キロ以上走ったヨレヨレのおっさんを助けるメリットって何だ?
惨め、情けない、恥ずかしい、カッコ悪い、自業自得
そんなのをまとめてドーーンとぶつけられた感じ。誰のこともまともに見れない。皆さん親切だ。でももうこの場を離れたい。恥ずかしい。
キャサリンさんはその間もずっと僕の体をさすって冷えないようにしてくれている。
パイプ椅子に座り甘えた時間を過ごす。時計の時間はどんどん過ぎていく。
もうサブ3.5は無理だな。サブ4ならいけるかな。
なんて考えていました。でも全く動けません。動けないけど動かなくては。パイプ椅子から立ち上がり
「す、すいません。ありがとうございました。」
と弱弱しくお礼を言ってトボトボと歩き始めます。
キャサリンさんがしばらく寒いだろうからとカイロをくれました。何て優しいんだ!
30キロから40キロまでの10キロのタイムが1時間30分。
苦しんだことがよくわかります。
このままではいつまでたってもゴールできない。少しは走ろう。
ゆっくりながらも一定のペースで走る60代位の女性ランナーの後ろについていく。相当ゆっくりだけど全然ついていけない。歩く走るを繰り返す。
ふくらはぎのつりはおさまっているがいつでもやってやるぞ!と待ち構えている。
針金のような形の虫がふくらはぎの中でグニョグニョと動いている。そんな感じ。ちょっとでもスピードを上げれば突き破ってでてきそうだ。
とにかくゴールまで行かなければこの苦しみからは逃れられない。ゴールまで行けば横になれる。とにかく横になりたい。
40キロ地点を過ぎた辺りから何とか走れるようになってきた。3時間半なんてとっくに過ぎている。4時間も無理。4時間半ならいけそうだ。サブ3.5一発っしょ!って言ってた俺って一体何だったのだろう?今、4時間半か5時間かの勝負をしている。
サブ5とサブ4.5では全然違うぞ!まだ4時間半はいける!
ヘロヘロと走る。全力を出しても進む力はほとんど無い。時間はどんどん過ぎる。
ネットタイム(スタートラインを越えてからゴールまでのタイム)では駄目だ。グロスタイム(号砲からゴールまでのタイム)が正式記録だ!
結果 4時間29分
ゴールして記録証やTシャツなどを受け取る。歩くのが辛い。完走いや完歩だ。感動も何も無い。フルマラソン走ったらもっと感動するのかと思っていたけど全く感動なんて無いな。何も嬉しくも無い。
4時間29分。なんてカッコ悪い記録なんだ。1時間近くも休んだんだな。これが初フルマラソンか。でもこれでよかった。ほとんどの人は初フルマラソンを感動的に終えるのだろう。目標を達成できなかったとしてもそれなりの満足感を得るのだろう。俺にはそれは無い。それでいい。いやむしろそのほうがいい。苦しまずサブ4とかでゴールするくらいなら、大失敗で地べたを舐めて苦しんで4時間29分のほうがいい。きっとそのほうが反省も大きいし強くなれる。うまくまとめてごまかすのは良くない。
それにしても沿道の応援の皆さんも声をかけてくれたランナーも私設エイドの皆さんも誰も僕に棄権をすすめなかった。まだ大丈夫だ。歩いても十分間に合う。そんな事ばかり言っていたな。
俺の事なんか誰も応援していないと決めつけていたけど違うみたいだ。
何で俺の事を助けたり、応援したりするのだろう。
ゴール後にお汁粉を頂きながらそんな事を考えた。
お汁粉の甘さと皆さんの優しさが身に染みた。
昨日までサブ3.5を達成できると思っていた自分を殺してやりたいそんな気持ちになった。
いま何位かなんて気にしないなんて言わないよ絶対~。 人気ブログランキング